発達障害

発達障害について

発達障害について仕事が続かず転職を繰り返す、なかなか自分に合った仕事に就けない、ミスが多くてしばしば上司に叱責される、片付けられず家の中が散らかったまま、家事が段取りよくできない、学校の勉強についていけない、人間関係がいつもうまくいかないなどの理由から、自信をなくしたり、うつや不安症状を抱え、なかには治療を受けているにも関わらずなかなか良くならない、あるいは症状を繰り返しているような方はいらっしゃいませんか。そのような場合には、背景に発達障害やその傾向が隠れている可能性を疑ってみてはどうでしょうか。

発達障害の特性と
自尊感情の低下

発達障害の特性は簡単に言うと、その人の得意と苦手の落差が大きいことからくる、環境への適応不全です。自分は周りと何か違うなとなんとなく感じながらも、周りに無理に合わせようと背伸びし続けたり、気を付けているはずなのにミスや失敗を繰り返してしまったり、どんなに頑張っても周りのみんなが当たり前のようにできていることができなくて、自信をなくしていってしまいます。

発達障害との
向き合い方

発達障害は、定義上は精神疾患には含まれますが、根本的には違います。他の精神疾患と違って、薬物療法で治すというものではありせん。ご本人の特性やそこからくるお困りごとを把握した上で、その人にとって無理なく過ごせるよう、周りから理解されサポートを受けられるように環境を整えること(環境調整)が治療のメインとなります。そのためには問診に加えて、発達検査や知能検査などを実施し、特性の把握、診断、アセスメントを行います。それから本人の特性受容や周りの理解を促していきます。必要なら精神障害者福祉手帳を取得のうえで就労を目指し、自立へと導いていくことが治療のゴールになります。元のハードルから下げることにより、背伸びする必要がなくなります。自分がダメだから、努力が足りないからではなくて、"特性を持っているのにも関わらずここまでよく頑張ってきた自分は素晴らしい''と少しずつでも思えるように持っていくことが治療の要になってきます。その結果、自尊感情や自己効力感が回復していき、これまで難治性だと言われてきた、うつや不安が良くなったり、症状はなくならなくてもその程度がずいぶん軽減して生活しやすくなるなどの間接的な治療効果があります。なかには薬物療法を終了できた方もこれまでに多く経験してきました。

子どもの発達障害の
種類と特徴

子どもの発達障害の種類と特徴発達障害は、先天的な脳機能、発達の偏りによって生じるものであるため、子どもの頃からその特性が見られます。ただ、大人ほど周囲から厳しい目を向けられたり、責任を問われることが少ないため、受診につながりにくいという側面があります。

子どものASD
(自閉スペクトラム症)

周囲とコミュニケーション
をとるのが苦手

相手が求めていることをくみ取るのが難しく、イライラさせてしまったり、喧嘩になったり、あるいは自分の気持ちが分かってもらえないために自身がかんしゃくを起こしたりといったことがあります。
また傾向として、一人遊びをすることが多くなります。そしてそのために、余計にまわりから仲間外れにされるということもあります。

言葉・言語の遅れ

同年代の子どもと比べて、言葉・言語の遅れが見られます。自分の気持ちを伝える、相手の気持ちを理解することが難しく、これもコミュニケーションの困難につながります。

こだわりがとても強く、
変化に対応するのが苦手

あるおもちゃに特別にこだわる(他のおもちゃでは遊ばない)、急な予定の変更に動揺するといった特性が見られます。「我慢しなさい」「お兄ちゃん・お姉ちゃんでしょ」と叱っても譲歩することが難しく、わがままだとさらに叱られたり、友達と喧嘩になったりします。

癇癪を起こす・
自傷行為をする

気に入らないこと、思いがけないことに直面すると、かんしゃくを起こしたり、頭を壁に打つなどの自傷行為に走ることがあります。髪の毛を抜く、爪噛みなども、自傷行為に含まれます。

子どものADHD
(注意欠如多動症)

じっとできない、
感情を我慢できない

じっと座っていたり、順番を待ったりするのが苦手です。感情を我慢することも難しく、ちょっとしたことでカッとなって手を出してしまう、大きな声をあげてしまうといったことがあります。

不注意、忘れ物が多い

うっかりミス、忘れ物が多く、整理整頓や片付けも苦手です。また、注意するよう指摘してもなかなか直りません。宿題や提出物、課題の締め切りに間に合わないことも多くなります。

自分の行動を
コントロールできない

クラスで課題に取り組んでいる時にすぐに気が散ってしまう、お喋りを注意されてもやめられないといった傾向が見られます。また、先生の指示に従う・まわりに合わせる行動が苦手です。

興味のないことに
集中できない

授業や課題など、取り組むべきことであっても興味がなければ集中できません。特に人の話を聞く、教科書を読むといったことが苦手であるケースが目立ちます。

子どものLD
(学習障害)

読み書きが苦手

読み間違いが多い、読むのが遅い・たどたどしい、読めるが疲れてしまうといった“読み”の苦手、文字の形が不正確、文法・句読点の打ち方が適切でない、作文が苦手などの“書き”の苦手が見られます。

数字が苦手

数字という概念を理解する、覚えることが苦手です。計算でミスが多い、時間がかかる、数式が用意されても当てはめることが難しいといった特性も見られます。

周りの人に理解されづらい

学習障害では、特定の分野で苦手が見られます。そのため、周囲からは「どうしてそこだけできないの?」「サボっている」と思われがちで、理解されづらいという傾向があります。

大人の発達障害

大人の発達障害社会に出ると、子どもの頃よりも厳しい目が向けられ、問われる責任も大きくなります。特に仕事で問題が生じている場合、患者様ご自身も自己評価を低くしてしまったり、自責の念を深くしたりといったことにつながります。

大人の発達外来について
詳しくはこちら

大人の発達障害の
種類と特徴

自閉スペクトラム症
(ASD)

社会コミュニケーションの困難と限定された反復的行動を特性とする発達障害です。

こだわりが強すぎる

手順やルールなどに強いこだわりがあり、一般的な感覚を超えて、その通りに物事を進めようとします。また、興味のある分野の話しかしない、相手の話に興味を持てないといった特性も認められます。

コミュニケーションを
とるのが難しい

冗談を冗談と受け取れない・真に受けてしまう、例え話が理解できない、空気を読めないといったことから、円滑なコミュニケーションが難しくなります。相手の都合を考えずに話しかける、話す時に目を合わせない、抑揚のなさ、声量の調整が苦手といった特性も見られます。

職場や仲間と馴染めない

相手の気持ちを想像する、常識的なルール・暗黙のルールを理解する、空気を読むといったことが苦手です。また自分の感情を表現する、言葉で伝えることも難しいため、職場や仲間となかなか馴染めないということがあります。

ADHD

不注意・多動性・衝動性を特徴とする発達障害です。いずれの特徴も、自分で気をつけたり、まわりから注意されて直るというものではなく、特に大人の場合は周囲からの理解が得られにくくなります。
ADHDは大きく分けると3タイプ存在します。

不注意優勢型

不注意が目立ち、多動性・衝動性は抑制されているタイプです。うっかりミスが多い、仕事の期限に間に合わないといった傾向が見られます。

  • ケアレスミスがとても多い
  • 整理整頓が苦手
  • 気が散りやすく、集中力が続かない
  • 頭の中でタスクを整理できない
  • 締め切りを守れないことが多い

多動・衝動性優勢型

不注意は少ないものの、多動性・衝動性が強く、静かにじっとしていることが苦手なタイプです。座っているべき場面で立ち上がりたくなる、動き出したくなることで、本人も強いストレスを感じます。会話の際、自分のことばかり喋ってしまうということもあります。

  • 身体を常に動かしていることが多い
  • じっとしていられない、何かをしていないと落ち着かない
  • 順番待ち・渋滞など、待つことが苦手
  • 衝動的に動く、独断で重要なことを決めてしまう
  • 思ったことをすぐ口にする

混合型

不注意優勢型と多動性・衝動性優勢型の両方の症状が現れます。

LD(学習障害)とは

知的発達の遅れ、視覚・聴覚の問題がないのに、読み・書き・計算といった特定の分野で極端な苦手が認められる発達障害です。複数の分野で苦手が見られることもあります。
LD(学習障害)も大きく分けると3つのタイプが存在します。

読みが困難になる
読字障害
(ディスレクシア)

文字や文章を読むことが、他の分野と比べて極端に苦手なタイプです。しばしば、書字表出障害を合併します。

  • 単語・文章が認識しづらく、文字を一つずつ読む
  • 音読が苦手
  • 長い文章を読むのを避ける
  • 文節、語の区切りが分からない

書きが困難になる
書字表出障害
(ディスグラフィア)

文字や文章を書くことが、他の分野と比べて極端に苦手なタイプです。メールを書くのに異様に時間がかかる、どこで改行したらいいのか分からないといったこともあります。しばしば、読字障害を合併します。

  • 誤字脱字が多い
  • 漢字を覚えることが苦手
  • 文字の大きさ、形がバラバラ
  • 促音(っ)/撥音(ん)などの二重母音をよく間違えてしまう
  • 文字の左右が反転していることがある

算数や推論が
困難になる算数障害
(ディスカリキュリア)

数字や数式の扱い、考える力を要求される問題が苦手なタイプです。1桁の数字の理解、足し算・掛け算が難しいということもあります。また、図形を把握したり、その問題を解いたりといったことも苦手です。

  • 数を数えるのが苦手
  • お釣りや割り勘の計算が出来ない
  • 時計の読み方が分からない
  • 数字に治すことが苦手
  • 概算・予算を考えることが苦手

発達障害の検査・診断

自閉スペクトラム症、ADHD、LD(学習障害)それぞれに診断基準があります。医師が患者様を診察したり、検査を行ったりすることで、時間をかけて総合的に診断します。
大人の発達障害を診断する際、幼少期の特徴や傾向も大切な情報となります。母子手帳・育児日記・通知表・連絡帳などがございましたら、お持ちください。また、ご両親にご同伴いただいても結構です。

診断がつかない
「グレーゾーン」

発達障害のグレーゾーンとは、発達障害の傾向が認められるものの、診断基準は満たさない範囲のことを指します。
グレーゾーンだから生きづらさが和らぐかと言えば、そうでもありません。診断名がつかないがゆえに、「甘えている」「努力不足」という厳しい評価がなされがちです。そのことで本人が自信を失ったり、自責の念を抱くことが重なると、診断名がついた人よりも生きづらさを感じるということがあるのです。

発達障害の治療

自閉症スペクトラム症
(ASD)の治療

発達障害は、生まれ持った特性であるため、治療法は確立されていません。しかし、以下のような方法で、生きづらさを緩和することが可能です。

心理療法

認知行動療法など、心理療法が有効です。
認知行動療法では、物事との捉え方の癖や偏りについて、医師の助けを借りながら自覚し、生きづらさを感じにくいように修正していきます。

環境を整える

苦手な状況の機会を減らすことが何より大切です。そのためには、周囲の理解や協力も欠かせません。
こだわりのあるルールや手順を覚えておく(紙に書いておく)、伝えたい・理解してほしいことを根気強く言葉にするなどの工夫が大切です。

薬物療法

コミュニケーションの困難、強いこだわりが見られる場合に有効なのが、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。イライラなどの興奮、落ち着きのなさに有効な漢方薬もあります。

ADHDの治療

心理社会的療法を中心とし、必要に応じて薬物療法を導入します。

心理社会的療法

ペアレントトレーニング

患者様のご両親に対して、患者様にとって好ましい行動を増やす・好ましくない行動を減らす方法を指導します。

行動療法

患者様に対して、その時の状況に合った適切な言動ができるよう、コミュニケーションにおけるコツ、社会のルール、マナーを根気強く教えます。

環境療法

まわりの人のADHDへの理解を深めてもらったり、患者様への接し方に注意してもらったりすることで、患者様の生きやすさを支援します。

薬物療法

ADHDの薬物療法では、覚醒度を改善するコンサータ、1つのことへの集中力を高めるインチュニブ、視野を広げるストラテラといったお薬を、症状に合わせて処方します。
ただし、これらの薬の効果は一時的なものですので、やはり心理社会的療法を中心に考えていくことが大切になります。

LD(学習障害)の治療

学校・家庭・職場などの環境を整える環境調整を行います。自分ができる対処法を身につけること、避けるべき場面を把握しておくことも大切です。
また、うつ病、不安障害、睡眠障害などを合併している場合には、それぞれに対する薬物療法なども導入します。

よくあるご質問

ADHDは治りますか?

先天的な脳の機能障害を原因としているため、「治る」ということはありません。しかし、心理社会的療法や薬物療法によって、生きづらさを軽減することは可能です。「治らないから」と諦めず、一度当院にご相談ください。

発達障害かどうか、確かめる方法はありますか?

精神科・心療内科を受診する必要があります。ネット上でセルフチェックリストなども確認できますが、あくまで参考程度とし、不安がある場合には必ず、精神科・心療内科を受診するようにしてください。

発達障害の人は何が出来ないのでしょうか?

発達障害の種類によりますが、全体として円滑なコミュニケ―ション、他者との関係の構築が苦手です。できることも多いものの、そのギャップが逆に生きづらさを強めてしまうということもあります。適切な治療により、自尊感情や自己効力感の回復を図ることが大切です。